職場内における不倫
不倫に関するご相談をお受けしていると、勤務先を同じくするもの同士が不倫(職場内不倫)関係になるという事例が非常に多く見受けられます。
その人の勤務先によりましては、家族と過ごす時間よりも、勤務先の上司・同僚・部下等と過ごす時間のほうが多いこともあるでしょうし、それだけ長時間一緒に過ごしていれば、ふとしたことをきっかけに不倫関係になることもあるのかもしれません。
また、社会に出て働いていれば、人は誰しも多かれ少なかれ仕事上のストレスを抱えているでしょうから、その現実から逃避するために不倫関係に陥る人が多いように感じます。
本来(?)であれば、家族と過ごしたり、友人等と遊んだりすることによって、その現実から逃避すべきだと思うのですが……
勤務先(使用者)の責任を問えるか
このような職場内不倫の事例でときどきご相談を受けるのは、配偶者と関係を持った第三者に対してだけでなく、その当事者の勤務先に対して責任を問えるか(損害賠償請求が可能か)ということです。
このようなご相談をされる方は、おそらく民法715条1項を根拠にしていると思われます。
- ※参考条文(民法715条1項)
- ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
しかし、職場内不倫はその当事者間の仕事と関係なくプライベートで行われたものでありますから、民法715条1項の言う「事業の執行」と解釈することには無理があります。
よって、職場内不倫の問題について、使用者(勤務先)の責任を問うこと(損害賠償請求をすること)は不可能です。
勤務先に不倫の事実を通知することの可否
では、職場内不倫の事実を勤務先に通知して、何らかの対処を求めることは可能なのでしょうか?
職場内不倫の事実を勤務先に通知する時点における不倫関係と夫婦関係には以下のような4パターンが考えられます。
- (1)不倫関係は清算されており、夫婦は婚姻を継続する
- この場合は、職場内不倫の事実を勤務先に通知すれば、いずれか一方又は双方の部署や勤務地を移動させるなどの対処が取られる可能性があり、それによって再度不倫関係に陥ることを予防できます。
- (2)不倫関係は清算されておらず、夫婦は婚姻を継続する
- この場合も、勤務先に通知することによって、その勤務先が不倫の当事者双方を別れるように説得してくれる可能性や、いずれか一方又は双方の部署や勤務地を移動させることにより、不倫関係を清算せざるを得なくなる状態を作り出してくれる可能性があります。
上記(1)及び(2)の場合に関しては、職場内不倫の事実を勤務先に通知することに実益がありますし、それなりの理由もありますから、しかるべき部署(人事部や直属の上司等)に通知しても問題は生じない可能性が高いです。
- (3)不倫関係は清算されており、夫婦は離婚に至る
- この場合は、夫婦が離婚に至る以上、再度不倫関係に陥ったところで関係ない話です。
- (4)不倫関係は清算されておらず、夫婦は離婚に至る
- この場合も、夫婦が離婚に至る以上、不倫関係が清算されることに意味はありません。
上記(3)及び(4)の場合に関しては、職場内不倫の事実を勤務先に通知することに実益は全くなく、単なる制裁や嫌がらせの意味しか持ちませんので、あえて実行すれば名誉毀損等の問題が生じる可能性があります。
退職を強要した場合
職場内不倫が発覚した後でも、夫婦が婚姻関係を継続するのであれば、もっとも憂慮することは、その不倫当事者二人が再度不倫関係に陥ることです。
部署まで同じである場合はもとより、部署が異なっても同じ場所で働いている限り、通勤途中やエレベーターの中で接触する可能性があるのですから、この問題の究極の解決方法は、その不倫当事者を物理的に引き離すことしかないでしょう。
つまり、配偶者の不倫相手を退職させることです。
しかし、一般の企業(当事務所の経験上、警察等は少々話が違うようです)においては、不倫があったからと言って懲戒免職になることはありませんので、不倫相手から辞職を申し出てもらう必要があります。
不倫相手に辞職を求めることは可能か
では、不倫相手に辞職するように要求することは可能でしょうか?
これは穏便にお願いという形をとるのでありましたら、不倫相手に辞職を要求しても問題ありません。
ただし、不倫相手が「辞職は絶対にしない」と拒絶している場合に、執拗に辞職を求め続けることには無理があります。
よって、現実的な解決方法としましては、職務外での私的な接触を持たない旨を誓約させたうえで、その誓約に違反した場合は、違約金が発生するという内容の示談書(和解契約書)を作成する以外にありません。
無理やり退職に追い込んだらどうなる?
では「辞職は絶対にしない」と拒絶している不倫相手に対して、勤務先に不倫関係を通知するなどして、辞職せざるを得ない状況に追い込んだ場合どうなるでしょうか?
この場合、下手をすれば被害者と加害者が逆転する可能性があり、本来加害者であった配偶者の不倫相手から、退職しなければ得られたであろう逸失利益を請求される可能性があります。
実際、不倫ではなくセクハラの事例ではありますが、地方公共団体の幹部職員からセクシャルハラスメントを受けたとして、これが強姦未遂であるとしてその地方公共団体に懲戒処分を求めた結果、退職を強要されたとして幹部職員から損害賠償を求めた判例(東京地裁・平18年10月30日)では、6500万円以上の逸失利益等が認められております。
